INPEXを買いと判断する理由
INPEXは、日本最大の原油・天然ガスの開発・生産企業です。日本のエネルギー安全保障にとって、最も重要な会社と考えられます。敵対的買収されることのないよう、黄金株【注】を発行し、経済産業大臣が保有しています。
【注】黄金株
経営上の重要事項について、黄金株の保有者に拒否権がある。企業防衛策として高い効果がある。敵対的買収などを防ぐ効果があると考えられる。
黄金株は、経営陣の自己保身に使われることもあるので、発行が認められることは少ない。日本で黄金株を発行しているのは、INPEXのみである。
INPEXは、2021年12月1日のレポートで投資判断を「強い買い」に引き上げた銘柄です。その時のレポートは、以下からお読みいただくことができます。
2021年12月1日:利回り3.7~6.2%、12月決算の高配当株5選。INPEXを「買い推奨」に引き上げ
株価は、2021年12月1日の938円から既に126%上昇して2,122.5円となっていますが、その間、利益も配当も自己資本も拡大しているため、PER8.5倍、PBR0.52倍と、株価指標で見て極めて割安です。日本のエネルギー安全保障にとって重要な企業であることが、株価に織り込まれていないと考えられます。
以下、長期の株価チャートをご覧ください。同社株価は2020年まで、原油・天然ガス価格下落を受けて下落していました。2021年以降大きく上昇しているとはいえ、2007~2008年の株価と比較すると、まだ低い水準にあります。
<INPEX株価、月次推移:2007年1月末~2025年6月(13日)>

INPEXを高く評価する点は、以下5点です。
【1】日本最大の原油・天然ガス生産・開発企業。長年の先行投資が実り、今後生産量・埋蔵量とも拡大が続くと見込まれる
原油・ガスの生産量・埋蔵量は国内最大で、海外20カ国に資源権益を有します。長い年月をかけて開発を進めてきたオーストラリア(イクシス)で先行投資が実り、生産量や確認埋蔵量が拡大する局面に入っています。インドネシア(アバディ)も2030年ごろ生産開始を目指し、開発が進んでいます。
【2】海外権益のほとんどが友好国に
海外権益はほとんど、オーストラリア、インドネシア、中東などの友好国にあります。
【3】技術的に難しい海底ガス田を開発
技術的に難しい海底ガス田を開発、陸上にガスを誘導して液化天然ガス(LNG)に転換して日本などに輸出するプロジェクトを行っています。技術的な難易度が高く、資源ナショナリズムによって接収されるリスクは低いと考えられます。
【4】脱炭素にも積極的に取り組み
2050年にCO2排出ネットゼロを目指し、(1)水素・アンモニア事業、(2)CCUS(CO2回収・貯蔵・利用)、(3)再生エネルギー事業(地熱・風力など)、(4)メタネーション(合成メタン)、(5)森林保全などの事業を推進しています。
【5】株価割安、株主への利益還元に積極的
PBR0.52倍と、株価は極めて割安と判断しています。
また、日本企業として珍しいほど、株主への増配・自社株買いに積極的と言えます。自社株買いを、2022年1,200億円、2023年1,000億円実施、2024年も1,300億円実施しました。配当と自社株買いを合わせた株主への総還元性向は、2022年が44.1%、2023年が60.6%で、2024年は55.0%でした。2025年以降も、引き続き、高水準の利益還元が期待されます。
一方で、不安材料もあります。特に私が重視しているのは、以下2点です。
【1】資源ナショナリズムのリスク
最大のリスクは、資源ナショナリズムです。海外に保有する権益はいつでも資源ナショナリズムによって接収されるリスクがあります。現在、友好国中心に権益を保有しているとはいっても、その友好関係がなんらかの理由で崩れるリスクは常にあります。
国交断絶にならない限り、さすがに無償で権益を没収されることはないと考えられますが、それでも友好関係が崩れると不当に低い対価で権益を奪い取られるリスクが生じます。日本企業が保有する権益に対し、「環境アセスメントで問題あり」など難癖をつけて取り上げることが考えられます。
友好国であっても法人税率をどんどん高めることで実質的に利益を取り上げられてしまうこともあります。INPEXも海外事業では高率の法人税を取られています。
【2】脱炭素が進むことに伴うリスク
世界中で、脱炭素に向けた取り組みが進む中、化石燃料ビジネスを展開する企業は、「環境税」などのペナルティを科せられるリスクがあります。これに対し、INPEXは2050年のCO2排出ゼロを目標としてさまざまな取り組みをしていますが、その効果が出るにはかなりの年数を要します。
ただ、上記に挙げたリスクを勘案しても、先に解説した五つのポイントから、INPEXに投資する価値は高いと判断しています。